□□□クリスマスの準備って楽しいよね。(薬眉『the first star to appear in the evening』)□□□
年の瀬も押し迫ってくると、空気もどこか落ち着かないものになってくる。
それは、ここ海堂高校の野球部寮においても例外ではなかった。
冬休みを前に残された最後のイベントを楽しもうと、寮生達はめいめいに買い出しに走る。もっとも寒空の下、その任に当たるのは1年生と決まっていたが・・・。
「随分、寒くなったもんだな」
「・・・ああ」
吐く息の白さが、透明な青い空に吸い込まれるように消えてゆく。街路樹は、殆どがその葉を路面に散らして、針金細工のような姿になって整列していた。
今日の買い出し当番にくじ引きで当たったのは眉村だったが、リストアップされた量を見て薬師寺は即座について行く事を決めていた。
「先輩達も、あんな顔していてイベント好きだとは思わなかったな・・・」
手袋を嵌めた手にも、ずっしりと食い込んでくるようなビニール袋の重みに身体を傾けながら、薬師寺が呟くと。隣で、やはり負けない位にはち切れそうな袋を下げた眉村が、微かに眉をひそめた。
「薬師寺は、こういうイベントは・・・好きじゃないのか?」
その表情が、不平や不満を表しているわけではない事が判るのは、そう多くはないだろう。
「いや、嫌いじゃないさ」
嫌いだったら、こんな買い出しもさっさと逃げ出してる。と少し笑って返せば、眉村の頬が微かに緩むのが見えた。
「俺も・・・嫌いじゃない」
途端に、クリスマスが急に待ち遠しく感じた自分の現金さを、薬師寺はこっそり心の中にしまっておいた。