「うおっ!これ、すっげー可愛いくねぇか!?」
「・・・・・・え」
いかにも女の子が好きそうなファンシーな色と柄の店先で、高々と差し上げられたのは、今流行している(らしい)奇妙なピンク色のキャラクターだった。



☆☆愛くるしい☆☆



どう見ても、輪郭が崩れている(ように思える)、眼も大きすぎる(ような気がする)、そして冗談としか思えないような―――その鮮やかすぎるピンク色!!

「なぁ、なぁ。これやっぱり可愛いよな、愛くるしいっていうか?」
「あ・・・う・・・」

これが某トレーナーだとか、某お姉様投手あたりだったら、確かに「きゃー!カワイイ!」等と黄色い(けど野太い)歓声をあげていたかもしれないが。生憎、僕にはそんな趣味はなかった。しかも君の口から『愛くるしい』って!!熱でもあるのかと思わず手をのばしてしまったけど、至って健康だったようだ。

「なぁ、どう思う?」
「どうって・・・、えっと・・・」

真剣な眼差しで見つめられるのは、嬉しい。嬉しいけれど今はとりあえず、視界の隅に存在を留めるようにしながらも、徐々に店頭から離れていった。でも、そんな僕を尻目に君は『どれが一番カワイイか?』なんて熱心に見比べている。

(いや、そんなのどれを買っても一緒だろ!っていうか、本気でそれ買うのか!?)

殺風景な男二人部屋で、へんなりと笑うショッキングピンクな未知の生物・・・。想像しただけで足下がぐるんと回って、世界が真っ白に弾けそうだ

『あ、これ下さい』
『はい、XXXX円になります。お包みしますか?』
『御願いします』

“ピー”短い金属音、“カシャカシャ”というビニールの音。僕の隣に戻ってきた君の手の中には、中身にも負けないファンシーな袋。


ああ、本日お持ち帰り決定・・・・・・。その後の事は良く覚えていない。



☆☆☆




あれからあの物体は、僕らの部屋の本棚の一角に収まっている。見慣れたといえば見慣れたんだけど、君がいない時は密かにタオルをかけさせてもらっているんだ。
もう何回も捨てようかと思った事もあったけど、その度に思い出す。あれを見つめる君の笑顔を。あの笑顔が見られるなら、僕のタオルも頑張ると思うよ。