□□□クリスマスは勝負の日!!(*兄弟設定「ask〜」より)□□□


軽快な音をたてて走り出す車のテールランプを見送った。

「うー、流石に寒ぃな」
吾郎はぶるると首を竦めて、ざっくりとしたニットの襟に顎を埋める。もうすぐ日が落ちきろうという時間だが、灰色の雲に覆われた空はいつもより明るいような気がした。

「兄さん、早く家に入らないと風邪ひくよ」
「・・・風邪ひくぞ」

玄関から寿也がひょっこりと顔を出した。その後ろにはもう一人、冬休みに入ったために帰宅した健も立っている。

暖かい部屋の空気で一息つくと、淹れたての紅茶を注いだマグカップがテーブルに並べられた。

「はい、これが兄さんの分。これは健のだよ」
吾郎の前には角砂糖が一つ。健の前には2つとミルク。自分の前にはミルクだけ。それぞれの好みに合わせた寿也のきめ細かさは、母親さえ凌ぐかもしれないと心の中で感嘆しつつ、吾郎は熱い飲み物を口に含んだ。


***


「兄貴、父さんと母さんは仲直りしたのか?」
お茶請けに出されたクッキーを囓りながら、末っ子の健が吾郎に尋ねてくる。兄弟から贈られたクリスマスプレゼントに驚き、喜んだ両親だったが。何が悪かったのか出掛ける寸前に派手な夫婦げんかをやらかしてしまった。「大方、原因はおやじなんだろうな」と思いつつも毎度の事なので、その辺りの追求は省略される。

「ああ、ちゃんと二人で出掛けたから、後はなんとかなるだろ」
「ふーん」
「お前もちゃんと心配してんだなぁ〜」

あまり表情にこそ出さないものの、弟も両親の事を心配していたのが判って。吾郎は笑いながら、短く揃った健の髪を片手でぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。

「それで、健は今夜どうするんだい?」

くすぐったそうに眼を細めながら、されるがままになっている末っ子に、綺麗な笑顔を浮かべた寿也が声をかける。

「あ・・・、俺・・・」
「え?寿也、今日は兄弟水入らずのクリスマスじゃなかったのか?」
「だって、隣の薬師寺くんが昨日から健の事を聞きに来ていたよ」
「薬師寺が?」

うん、健のこと誘いたかったみたいだよ。とにっこり笑う寿也から漂う雰囲気は、あくまで穏やかだ。しかし―――、確実に黒い。

吾郎の脳内で激しく点滅黄色信号が点滅し始める。

(まずい!!この展開は、絶対にまずい!!)

「・・・それって、なんかめちゃくちゃ不自然じゃないか・・・?」
普通、クリスマスって家族で過ごすもんだろ。なんで健だけ薬師寺さん家でやるんだよ。と、やっとの思いで口に出したが、頼みの綱の末っ子は、あっさりと白旗を揚げてしまった。

「・・・俺は別にかまわない」

「じゃあ、ケーキとお料理も用意してあるから、薬師寺くんに渡してくれるかい」

「え!?何言ってんだよ!!」

思わず声が大きくなったところで、あまりにも周到過ぎる寿也の計画に、変更の余地はないらしい。すでに綺麗にラッピングされたお土産の数々を袋に詰めて、寿也は笑顔の大盤振る舞いだ。

「兄さんこそ、何言ってるんだい?」

「・・・・・・う」

「・・・・・・薬師寺んち行ってくる」

大きな包みを抱えて玄関を出て行く後ろ姿を見送りながら、吾郎の中で点滅していた信号が鮮やかな赤に変わる。

「じゃあ、兄さん。今日は二人っきりで過ごせるね」

クリスマス、本当の勝負はこれから、・・・らしい。