1.強引な告白


 


サインに首を振る投手は嫌いなんだ」と言われたけど



1.強引な告白



放課後の部室。いつもと変わらず、着替えにもたつくオレを阿部くんは待っていてくれた。日誌を書き込んでいたり、発売されたばかりの野球雑誌に目を通していたり。着替えの合間にこっそりと盗み見る横顔は、いつだってオレの心臓に微かな痛みを覚えさせる。

「おい・・・」
「は、はは、はいっ!」

てっきり本に集中しているとばかり思っていた阿部君が、視線は雑誌に落としたままで声をかけてきた。

「こっち気にする暇あんなら、とっとと着替えろよ!」
「うおっ!」

見ていない様で、しっかり見ている。阿部くんは本当にすごいと思う。でも焦ったオレの指先で、小さなボタンはつるつると滑るばっかりだ。

「・・・相変わらず、ボタン嵌めるの下手なヤツだな」
「ご、ご、ごめん・・・」

呆れた様な溜め息がすぐ側で聞こえて、オレよりも少し大きな手がシャツの前を掴んだ。

「動くなよ・・・」

耳元で囁かれて、引き寄せられる。

「う、うん」
「じっとしてろ、いいな?」

首筋にかかる息が熱い。何でこんなに近く?という疑問は次の瞬間、瞬くうちに消え失せる。はいと答える代わりに、反射的に竦めた肩に阿部くんの額がぶつかって。ボタンを止めるはずの手が背中に回され、痛い位に抱きしめられた。

「あ、べ・・・くん?」
「・・・・・・だ、三橋」
「な・・・に?」

掠れた低い声。

「俺が好きだって言ってんだから、首、振んな」

強引な仕草。傲慢な台詞。それでも、細く漏れた息は震えていて。



―――これじゃあ、命令というよりも懇願。



「う、うう・・・」

「答えろ三橋。どっちだよ?」

首を振るなと言ったくせに、どっちか、なんて聞くなんて。そんな事聞かれなくても、答えは最初から決まってるのに。


すごく優しくて、すごく強引な告白に、オレは小さな声で「はい」と呟いた。